膝蓋骨脱臼(パテラ)
膝蓋骨とは
膝蓋骨とは大腿骨(太もも)の骨の端に位置し、膝関節を形成しています。

大腿骨の端は溝があり、その溝を膝蓋骨が滑ることで膝関節がスムーズに動く手助けをしてくれています。
膝蓋骨には大腿直筋や腱が付着しており、脛骨につながっています。
膝蓋骨脱臼
膝蓋骨が様々な要因で外れてしまうことを、膝蓋骨脱臼といいます。
獣医師による触診で容易に診断が可能です。

内側に外れる場合を内方脱臼、外側に外れる場合を外方脱臼といい、脱臼の程度によってグレード分類されています。
グレード1:膝蓋骨を人の手で外そうとすると外れるが、手を離すと自然に元の位置に戻る状態
グレード2:膝の曲げ伸ばしによって膝蓋骨が外れるが、自分で元の位置に戻せる状態。(=自然に外れたり戻ったりを繰り返している状態)
グレード3:膝蓋骨は常に外れており、人の手で元の位置に戻すことができるが、手を離すとすぐに脱臼してしまう状態
グレード4:膝蓋骨は常に外れており、手で元の位置に戻すこともできない状態
膝蓋骨脱臼は内方脱臼が圧倒的に多いですが、大型犬は小型犬に比べて外側脱臼が多いとされています。
猫の膝蓋骨脱臼はあまり多くありません。
症状は、脱臼した脚を挙げてしまうことがありますが、脱臼していても普通歩いてしまう子も多いです。
グレード4でも歩行可能な子もいれば、グレード2で歩けない子もいますので、グレードはあくまでも分類方法であり、重症度や症状とは必ずしも関連しないことに注意が必要です。
原因
いくつか要因はあり、それぞれが複雑に関与した結果発症すると考えられています。
上述のように膝蓋骨は大腿骨の溝の上をすべるように動いていますが、その溝が浅いために外れやすいとか、
大腿骨の股関節側の角度が生まれつきおかしく、それによって筋肉の向きがおかしくなり、膝蓋骨が内側に引っ張られて発症する等の要因がありますが、基本的に遺伝的側面が強いとされています。
治療
治療方法は経過観察か外科治療(手術)に分かれます。
どの段階になったら手術をするかという基準が明確に確立はされていないのが現状で、その判断は個々の獣医師の判断に委ねられます。
グレード3以上は将来的な関節炎のリスクを減らすために手術をした方が良いという人もいれば、グレードに関わらず歩けているなら手術しなくても良いという人もいます。
当院では無用な侵襲を避けるため、グレードに関係なく基本的には症状がある場合に手術適応としています。
脚を頻繁に挙上してしまうと筋肉が萎縮したり関節が固まってしまい、いざ手術をしたときに回復も遅くなってしまいます。
手術方法はいくつかあります。
・縫工筋リリース術
・滑車溝深化術
・内側支帯縫縮術
・外側支帯開放術
・脛骨粗面転移術
・関節外制動術
これらの術式を複数組み合わせて手術を行いますが、どの組み合わせが正しいというのも明確に確立されていません。
大事なことは、内側の脱臼を整復するために外側に引っ張りすぎた結果、外側に外れてしまうということだけは避けなければならないということです。
また、グレード4で大腿骨が変形している場合は骨切りによって骨の形を矯正する必要もあり、その場合は整形外科専門病院や大学病院での手術が必要となります。
今回手術を行った症例は、「グレード2で頻繁に脚を挙上してしまう」という状態でした。
以下、手術写真です。今回は縫工筋リリース、滑車溝深化術、内側支帯縫縮術(写真なし)、関節外制動術の3つの術式で手術を行いました。

丸で囲んでいるところが縫工筋です。

電気メスで切除しました。これで縫工筋リリースは終了です。
これは脛骨を内側に引っ張っている縫工筋を開放することで、膝蓋骨が内側に外れようとする力を弱めるために行います。
続いて滑車溝を深くしていきます。

囲んだ部分が滑車溝です。溝が浅く、膝蓋骨が乗るだけのスペースがありません。
このまま骨を削って溝を深くすると表面の軟骨まで削ってしまうことになり、将来的に非常に強い関節炎を引き起こします。
そのため、表面をクサビ形に切除し、その下の部分を削ることで溝を深くしていきます。


黒丸で囲んでいるところが楔型に外した骨片で、緑丸で囲んでいるところは外した骨片の下を削ったところです。こうすることで表面の軟骨成分を削ることなく溝を深くすることができます。

十分に骨を削ったら骨片を上に載せます。この上に膝蓋骨が乗って圧着してくれるので固定は特に必要ありません。深さとしては1㎜程度深くなるだけで大丈夫と言われています。
この時点で膝蓋骨を載せるとほぼ外れない状態になっています。
最後に関節外制動術を行います。
脛骨が内旋(内側に曲げること)しないように軽く外側に引っ張ることで、膝蓋骨が内側に外れようとする力を中和する目的で、人工靭帯を入れます。

透明な糸なので見づらいですね。

皮膚縫合が終わったら最後に関節の腫れを抑えるための包帯を巻いて、手術終了です。

手術前のレントゲンです。向かって右側が左脚(手術をした方の脚)です。
赤い丸は正常な膝蓋骨、黒い丸は内側に外れてしまっている膝蓋骨です。

術後は外れていた膝蓋骨が中心に位置しています。
術後と合併症
術後は数日~1週間程度包帯を巻いておき、その後は包帯を外してリハビリを開始します。
この時点で脚をかばいながらも歩行可能な子もいますが、基本的に関節切開をした後は一時的に強い関節炎が起きるためしばらく歩けません。
目標としては、術後2~3か月を目安に元通りに歩ける程度だと思っていただけると良いと思います。
術後の合併症としては内側への再脱臼、あるいは外側に引っ張りすぎたことによる外側脱臼、手術部位の感染が挙げられます。
先述したようにグレード4は専門的な技術や術前のCT検査による骨の変形の精密検査が必要となるため、大学病院へ紹介することがあります。
膝蓋骨脱臼は非常に多い病気ですが、脚をかばっている原因が膝蓋骨脱臼以外の可能性もあります。
脚の痛みでお悩みの際はいつでもご相談ください。

